読書と散歩

そのまんま。

10月の読書メーターまとめ

2016年10月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:6363ページ
ナイス数:439ナイス

東海道寄り道紀行東海道寄り道紀行感想
遺稿集。『ラパン』に1998年から2000年にかけて書かれた紀行文をまとめたもの。種村さんといえば温泉ですが、この連載は温泉成分は薄め。その代わり柳田・折口といった民俗学者の著作が頻繁に引用され、読んでいると、晩年は関心の比重がそちらに移っていたのだろうかという気もしてきます。
読了日:10月30日 著者:種村季弘
孤燈の夢―エッセイ集 (1979年)孤燈の夢―エッセイ集 (1979年)感想
第1章は大学教員としての雑感、第2章は森鴎外などの文学・演劇・映画・絵画論、第3章は著者の専門である解剖学・人類学の眼でみた女性や社長さん達の顔についての砕けた文章、第4章はその他、という構成。教授会に出ながら列席している面々をスケッチしたり、パリの人類博物館に祇園芸者のプロマイドを日本人女性の代表的タイプとして陳列したり(それを桑原武夫に怒られたり)と、どこまで本当かわからない話が多いです。洒落っ気のある文体で書かれた雑学エッセイ集です。
読了日:10月30日 著者:金関丈夫
エデンの海 (1951年) (角川文庫〈第298〉)エデンの海 (1951年) (角川文庫〈第298〉)感想
図書館のリサイクルコーナーで拾った本。1946年に書かれた、瀬戸内が舞台の青春小説。女学生と青年教師の恋愛を描いています。口さがない連中も出てきますが、二人の絆の強さを象徴するような終盤のシーンまで、お邪魔虫は殆ど付け込む隙ないという感じ。読後なんとも爽やかな印象を残します。合わせて収録されている『禁断』は設定は殆ど表題作と同じものの、一転ドロドロとしたお話で、登場人物の誰も爽やかな人物がいないという救いのない中編でした。私は陰惨な話が苦手なので、表題作の方が圧倒的に好きです。
読了日:10月29日 著者:若杉慧
阿呆の鳥飼 (中公文庫)阿呆の鳥飼 (中公文庫)感想
雀や鶯をはじめとして様々な鳥を飼ったエピソードの集積。現代でも、鳥を飼うということは、その儚さと対面することでもあります。ちょっとのことであっけなく死んでしまうし、ふとした拍子に逃げ出してしまう。百閒も多くの鳥との別れに直面していて、しかしついまた飼ってしまうことを繰り返していたようです。鳥の持つ愛らしさと別れの寂寥感がないまぜになっています。漱石邸に飼い鳥を連れて訪問した時のエピソードは可愛らしくてひときわ印象に残ります。
読了日:10月29日 著者:内田百閒
違和感から始まる社会学 日常性のフィールドワークへの招待 (光文社新書)違和感から始まる社会学 日常性のフィールドワークへの招待 (光文社新書)感想
日々の生活の中でふと感じる違和感を大切にして、自身の日常性を見つめ直してみませんかという誘いの書。著者の専門は差別の社会学であり、べてるの家などの当事者研究六車由実さんの介護民俗学なども日常生活批判のフィールドワークの例として引用されます。主張自体には異論ないです。ただ、やたら電車内のエピソードが多く、車内で化粧する女性や二人分の座席を占有する人を例に、電車内が公共的空間ではなくなってしまったとしているけど、それ、あらわれ方が違うだけで以前からずっとあったことじゃないかなあ。
読了日:10月25日 著者:好井裕明
日本の敬語論 - ポライトネス理論からの再検討日本の敬語論 - ポライトネス理論からの再検討
読了日:10月25日 著者:滝浦真人
江戸の幽明──東京境界めぐり (朝日新書)江戸の幽明──東京境界めぐり (朝日新書)感想
第一部は江戸の総論、第二部は江戸の周縁ガイド、第三部は拾遺編。『江戸名所図会』を参照しながら巡り歩く第二部が圧倒的に面白いです。向島百花園清澄庭園などについての薀蓄を読むと、どちらも再訪してじっくりと歩いてみたくなります。新川あたりの章では脱線に脱線を重ね、荒俣さんのお師匠さん平井呈一についての評伝のようになってます。大学生時代の荒俣さん、鏡花と足穂が好きだと言った所「鏡花とか足穂じゃ、話にならねえよ。大したモンにゃなれねえな」と平井氏に一蹴されたそうです。それを乗り越えての今の荒俣さんなのかな。
読了日:10月24日 著者:荒俣宏
共産主義的人間 (中公文庫 M 97)共産主義的人間 (中公文庫 M 97)感想
再読。論文集で、1946年から1951年にかけて書かれたものが収められています。表題作は当時の共産主義者や国家への激烈な批判です。カトリックの女性からの問いかけの手紙に返信するスタイルをとって、新興宗教キリスト教も本質は同じだと切り返す『邪教問答』をはじめ、発表された年を考えると過激な論考が多く、書かねばならないことは書くという覚悟が伝わってきます。巻末の『三木清の思い出』は笑いを誘う文章ですが、最後はやはり、時代の中で自己を保ち続けた著者の強さを感じる内容になってます。
読了日:10月22日 著者:林達夫
透明な時の中で透明な時の中で感想
遺稿集。かなり雑多な内容ですが、多くは著者がかつて住んだ土地土地の思い出を書いた随筆です。福島、千葉、東京、横浜、神戸、長崎、那覇と、実に各地を転々とされた生涯だったようです。なかでも小岩に住んでいた頃について書かれた章は、自らの若き日の過ちを悔いる内容とあいまって、痛々しくも美しいです。
読了日:10月22日 著者:島尾敏雄
About Time: 12 Short StoriesAbout Time: 12 Short Stories感想
短編集。どの作品も基本的には、古き良き時代・街に戻りたいと思っている主人公が、本当にタイムスリップして戻っちゃう、という内容です。昔のアメリカの街ってそんなにいいことだけだったの?苦しんでる人達いたんじゃないの?と現代の読者としては思っちゃいますが、昔のSFだしな・・。ともあれ古いハリウッド映画を観ている感覚に浸れます。ハヤカワから出ている『ゲイルズバーグの春を愛す』収録の訳文でかつて読んだ"Home alone"(『大胆不敵な気球乗り』)、今回もこれが一番のお気に入り。目の前にぱあっと光景が広がります。
読了日:10月21日 著者:JackFinney
異人論―民俗社会の心性 (ちくま学芸文庫)異人論―民俗社会の心性 (ちくま学芸文庫)感想
村に訪れた部外者としての僧や山姥、神などに、民話の中の人々はどう接したか。泊めた旅人が翌朝見ると金貨になっていた、というような民話は何を意味しているのか。人々の残虐性から目を逸らさず考えると、犠牲になった異人達の姿が見えてくる。後半は妖怪達についても、異人と関係づけて論じられます。
読了日:10月21日 著者:小松和彦
宮本常一『忘れられた日本人』を読む (岩波現代文庫)宮本常一『忘れられた日本人』を読む (岩波現代文庫)感想
宮本常一『忘れられた日本人』の優れた所、批判的に読むべき箇所を丁寧に辿った書。前者としては東日本と西日本で差別ー被差別の歴史が質的に異なると指摘したことなどが、後者としては百姓を「農業をする」人と捉えてしまっていることなどが挙げられています。周囲の歴史学者らとの確執についての記述はかなり生々しいです。この本は網野善彦最後の著書でもあり、晩年まで宮本に畏敬の念を持ちつつ批判的に乗り越えようとし、『もののけ姫』や『電波少年』にまで刺激を受けていた網野善彦の学者としての姿勢が現れた内容にもなっています。
読了日:10月17日 著者:網野善彦
忘れられた日本人 (岩波文庫)忘れられた日本人 (岩波文庫)感想
十数年ぶりに再読。以前読んだ時は古老達が語る無名の者達の歴史に、中高と学んだ為政者中心の歴史には感じなかった感動を覚えた。今回も、大政奉還から昭和初めまでの名もなき人々の暮らしぶりに胸打たれつつ読みました。蚕や狸、狐・亀といった動物たちの生き方も尊重して村での生活が成立していたこと、文字を読めない者が大多数だった中、文字を読み書きする古老が少数ながら現れ、彼らはそれまでの伝承者とどういう風に異なっていたのか書かれた下りが今回は印象に残りました。
読了日:10月16日 著者:宮本常一
迷宮としての世界(下)――マニエリスム美術 (岩波文庫)迷宮としての世界(下)――マニエリスム美術 (岩波文庫)感想
『イメージ機械』『装飾癖』などのテーマ毎に時代を行き来しながら語られる大部の美術論。深い知識のある方ならこのみっちりした文章に伴走出来るのでしょうが、私は上巻の途中で諦め、以降は流し読みしました。一番面白かったのは上巻の『時間の眼としての時計』で、マン・レイやルドンの『眼』に触れた後、結語としてある画家の作品が置かれます。これ現物観てみたいが、モスクワにあるのか、、遠いなあ。
読了日:10月15日 著者:グスタフ・ルネ・ホッケ
迷宮としての世界(上)――マニエリスム美術 (岩波文庫)迷宮としての世界(上)――マニエリスム美術 (岩波文庫)
読了日:10月15日 著者:グスタフ・ルネ・ホッケ
木曜日を左に曲がる木曜日を左に曲がる感想
毎度おなじみの喫茶店、コーヒー、写真、といったアイテムに満ちた短編集。いつもとちょっと違うのは、途中で主人公の作った詩(つまり片岡義男の作った詩)が長めに披露されるところ。片岡義男作品のこの気分を落ち着かせる感じはなんだろうと思いながら読み終わると、後書きにまさかの小説論が簡潔に述べられていて、ああ、と納得。
読了日:10月11日 著者:片岡義男
荷風思出草 (1955年)荷風思出草 (1955年)感想
晩年(昭和30年)、当時の友人だったらしい鉄工所重役の方を聴き手に迎えた語り下ろし。近頃の若い文士は、芸者は、、と苦言並べてるあたり、こういう古代から延々繰り返されてきた悪習からこの人も逃れられなかったんだなあという感じです。内容よりも、「〜しちまっちゃあ」「〜ですぜ」みたいな口調の人だったんだ、ということがわかるのが読みどころかなあ。
読了日:10月9日 著者:永井荷風
ALONG V・A・C・A・T・I・O・N ア ロング バケイション (artback)ALONG V・A・C・A・T・I・O・N ア ロング バケイション (artback)感想
同名の大ヒットアルバムの前に出版されていた絵本。現物にはお目にかかれないだろうと思っていたら、地元の図書館に思いがけず置いてあり借りてきた。永井博のイラストがメインで、大滝さんはページごとに英文一行の文章を添えている。夢想の避暑地でのひとときという感じで、このままだとあのアルバムの一側面しか感じられない。他の要素を詰め込んで現行のロンバケになったんだろうな。
読了日:10月9日 著者:大瀧詠一
浅草十二階 塔の眺めと〈近代〉のまなざし浅草十二階 塔の眺めと〈近代〉のまなざし感想
明治23年に開業した浅草十二階は、その後四年間程は高所からの眺望を楽しもうとする人々で賑わった。しかしアッサリと飽きられ、その後は新聞記事や漫画で嘲笑の種となり、関東大震災で崩落するまで閑古鳥の鳴く塔として存在し続けた。その一方で、浅草の賑わいから逃れ閑散とした塔で一息ついていた乱歩のような人は、そこで感じたことを『押絵と旅する男』に投影していく。当時の写真が、開業直後の華々しさと終末の零落ぶりを冷徹に映し出していて興味深い。また、スカイツリーとの類似点が多く、あの塔の先行きが不安になる。
読了日:10月8日 著者:細馬宏通
すみだ川―他三篇 (岩波文庫 緑 41-1)すみだ川―他三篇 (岩波文庫 緑 41-1)感想
明治42年に書かれた短編4つ。荷風の分身のような学生と、遊郭の女性達との、育ち・家柄の違いから生じる距離感がどの短編でも根底に流れています。時代背景を考慮しても主人公が身勝手すぎる『祝盃』のような作品も含まれてる中、関東大震災で焼失したという本所四ツ目牡丹園を小道具にした『牡丹の客』が、この本の中では一番読後感がいいです。
読了日:10月8日 著者:永井荷風
吉本隆明という「共同幻想」 (ちくま文庫)吉本隆明という「共同幻想」 (ちくま文庫)感想
吉本隆明なんて、ある特定の世代にとって神様扱いされてるだけで、実際は大したことないよ、と文庫丸一冊かけて論じられている。でも、呉智英さんが思ってるのに輪をかけて、それ団塊の世代以降はみんな感じてることじゃないかなあ。呉さんは吉本隆明批判というよりは彼が持ち上げられた現象を書きたかったそうですが、だとしても、わざわざ本一冊書くほどのトピックとは思えないんですよね。巻末に書かれてるように、団塊の世代には刺さるのかもしれないけれど。
読了日:10月7日 著者:呉智英
介護するからだ (シリーズ ケアをひらく)介護するからだ (シリーズ ケアをひらく)感想
コミュニケーション論が専門の大学教授が、介護士と高齢者の関わりを観察し続けた結果をまとめたもの。相手に〈心〉があると考えると、問題が起こった時に高齢者側に問題があると考えがち。心の有る無しは一旦棚上げにして身体の動きに注目しよう。すると問題の発端は高齢者自身ではなく、介護する側が高齢者のサインを読み取れてないからだということに気づき考えを深めるとっかかりが出来るでしょう、と提案している。介護現場で働く者として主張自体には賛成。ただし最後のほうの食事介助の具体例は、高齢者の状態によってはとても危険だと思う。
読了日:10月6日 著者:細馬宏通
ことばと身体 「言語の手前」の人類学 (講談社選書メチエ)ことばと身体 「言語の手前」の人類学 (講談社選書メチエ)感想
再読。会話にとって重要なのは、情報を伝えることよりも、「こんなつまらないことを長々としゃべっていて、いったい何が楽しいのか」と第三者が感じてしまうようなことであると述べられる。著者の書き方は込み入っており解りにくいが、会話のうち、書き留め可能な部分は情報、それ以外の部分は言語以前の身体から生じる相互行為であり、後者は人間以外の生物でも本質は変わりない。後者を重視することで、コミュニティごとの差異から生じる諸問題の解決策が見出されるのではないか、ということなのかな。
読了日:10月4日 著者:菅原和孝
幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版 (ちくま文庫)幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版 (ちくま文庫)感想
幕末に紀州和歌山から江戸に単身赴任した下級武士の日記を辿りながら、当時の食生活を描いた本。この酒井伴四郎というお侍さん、自炊もばっちりこなしつつ、江戸のあちこちを歩き回っては月数回の外食を楽しむというお方で、なんというか実に生活を楽しんでおられます。明治維新前後であり一時は命が危うくなることもあったようですが、世の流れなど関係ないよと大らかに構えて飲み喰らい続けるのがこのお侍さんのライフスタイル。非常に魅力的です。
読了日:10月2日 著者:青木直己